中川淳一郎のビールと仕事がある幸せ

かつてサラリーマンにとって欠かせないツールだった「名刺」の現在地 「なくても仕事はできる」「個人情報が流出するのは怖い」

リタイアした高齢者から“趣味の名刺”をもらうことが増えた

 さて昨今IT業界の人々やクリエーターと会うと、名刺を持っていないことがかなり多くなりました。名刺交換の時は「あ、僕持っていないんですよ」と言い、受け取るだけ。あるいは同業者の場合だと名前だけ聞き、会議の中で「今後もこの人とは付き合いたい」と考えたら「メッセンジャー送りますね」で後はカタがつく。

 一方、最近多いのがリタイアをした高齢者から名刺をもらう機会です。所属企業や役所名はないものの、「NPO法人○○城振興会 理事」や「××写真倶楽部 副部長」「××古墳保存会 代表」といった、まあいわば趣味の名刺です。そこには携帯電話の番号とメールアドレスが書かれています。70代を過ぎた人々はSNSのDMはあまり使っていないですね。メールと電話とLINEといったあたりでしょうか。

 そうした世代は、名刺が大事な時代に会社員人生を送ってきたこともあって、多くの人が名刺を作りたがっています。ただ、現在の40代以下が高齢者になる時は、名刺文化は廃れているでしょうね。何しろ私自身もこれまでに数万枚も名刺をもらってきましたが、使う機会はとんとない。95%ほどの名刺はすでに処分していますが、それでも困ったことがない。連絡を取り合う必要がある人ってのは、すでに電話でもメールでもDMでもやり取りできているわけですから。

 そして、もう一つ、個人情報保護が叫ばれるようになり、くわえて特殊詐欺が横行している中、名刺が流出するのは怖い。かつて私は、ネットに名刺情報を公開するサービスを使っていました。友人が同社の幹部だったので仕方なく、という消極的理由からです。しかし、最近「あなたのプロフィールがこの1週間で2件見られました」という通知が来るとゾッとするんですよ……。こちとら転職する気もないですし、これ以上交友関係を増やしたいとも思わない。個人情報をネット上に置いておくデメリットを考え、その通知を見た数分後には退会しました。

 もちろん当面は自分の名刺を使い続けますが、相手が出さなかったらこちらも出さない、という感じで、名刺を減らすスピードを遅くしようと思います。100枚120円の激安名刺ながらも、新たに作るのは面倒くさいので。

【プロフィール】
中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう):1973年生まれ。ネットニュース編集者、ライター。一橋大学卒業後、大手広告会社に入社。企業のPR業務などに携わり2001年に退社。その後は多くのニュースサイトにネットニュース編集者として関わり、2020年8月をもってセミリタイア。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』(光文社新書)、『縁の切り方』(小学館新書)など。近著に倉田真由美氏との共著『非国民と呼ばれても コロナ騒動の正体』(大洋図書)。

【現物写真】筆者が会社をやめて初めて作った名刺

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