名刺はビジネスパーソンにとっては必須のツールとされてきたが、昨今はかつてほど重要視されなくなったように感じる。「ここのところ、めっきり名刺交換の機会が減った」というネットニュース編集者の中川淳一郎氏が、今後のビジネスパーソンと名刺の関わり合い方について考察する。
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昔から名刺って苦手だったんですよ。立場が下の者から先に出さなくてはいけないとか、相手先の中の一番エラい人から順に名刺交換をするとか、立場の下の者は下から名刺を出すとか……とにかくめんどくさいビジネスマナーが多い! そして、名刺をその日切らしていたら世界の終わりが来たかのように、「すっっっいません! ただ今、名刺を切らせておりまして! 今、会社に作ってもらっている最中ですので、できましたらすぐに送ります。ほんっとうに申し訳ありません!」とペコペコ頭を下げる。
名刺を忘れて出てしまった場合、電車の中から会社に電話して、バイトの学生に出先まで名刺を持ってきてもらうようお願いしたりもしたもの。かつて「サラリーマン」と呼ばれた企業戦士にとっての名刺は、武士にとっての刀のごとき時代もあったのです。少なくとも2005年頃まではそのような空気感があったように思います。
役所やよっぽどの大組織であれば別ですが、現在は名刺が“オプション”的な役割になっているように感じます。若い人ならば「どうせSlackやTeamsでやり取りするのだから、電話番号もメールアドレスも不要」と合理的に割り切る。さらに、エラい人の名刺をもらったとしても、自分がまずその人に連絡をすることはないから、特に役に立つこともない。たとえ自分の名刺を渡したとしても、相手が使うこともないだろう、なんてことも考える。
さらに、8人×8人といった会議の場合、64回もの名刺交換の必要があり、これだけで10分ほどかかってしまうのも無駄。その時は互いに何を言ってるのか分からない感じでゴニョゴニョと何かを言い合い、「このたびはお世話になります」で、名刺の肩書を見て「ハハァ!」と大げさにそのエラさを驚く、といった茶番も混ぜ込んでいました。
そして会議が始まると誰が誰やら分からないから、みな机の上に麻雀牌の如く名刺を並べ、「どっちが田中でどっちが吉田だったっけ……?」なんて思いつつ、隣の席の部下の並びをカンニングし、自分もその通りの並べ方にする。しかし、この部下が根本的に記憶違いをしていることもあるわけで、名前を間違えてしまうと赤っ恥をかくことになる。