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河合雅司「人口減少ニッポンの活路」

医師の高齢化に伴う引退で「診療所ゼロ」市町村が激増へ たとえ過疎地域の医師不足解消に取り組んでも問題解決とはならない事情

問題解決には厚労省の政策だけでは間に合わない

 仮に、医師の地方誘導に成功して過疎地域の医師不足が解消できたとしても、それだけで問題が解決するわけではない。先述したように、生活に不可欠な商品やサービスを提供する他の民間事業者がいなくなってしまったのでは、そもそも暮らしそのものが成り立たないからだ。このことは、医師不足対策として期待のかかる「オンライン診療」の限界も示している。医療の存続の前に「暮らしの存続」が問われているのである。

 言い換えるならば、地域偏在が必然的に進む人口減少社会においては、医療機関のみならず、さまざまな事業が成り立つだけの地域商圏の規模が不可欠ということである。

 これを逆説的に捉えると、社会基盤の中で最も重要な存在の1つである医療の届きづらい地域が広がってきた現実は、各地域で人々が集まり住むことによる商圏規模の維持を突き付けているということだ。

 人口減少社会における地域経営では、限られた社会資源を少ない人手で切り盛りしなければならない。それには人々が集住し効率的かつ効果的な社会を築くことが最も有効な方策なのである。

 医師偏在を解消し「診療所ゼロ」自治体の拡大を防ぐには、厚労省の政策だけでは間に合わない。地域の在り方そのものを見直していく取り組みが問われている。

■前編記事:【ニッポンの医療危機】「診療所ゼロ」の自治体が2040年までに4.4倍になる予測 “町のお医者さん”がいなくなる3つの構造的要因

【プロフィール】
河合雅司(かわい・まさし)/1963年、名古屋市生まれの作家・ジャーナリスト。人口減少対策総合研究所理事長、高知大学客員教授、大正大学客員教授、産経新聞社客員論説委員のほか、厚生労働省や人事院など政府の有識者会議委員も務める。中央大学卒業。ベストセラー『未来の年表』シリーズ(講談社現代新書)など著書多数。話題の新書『縮んで勝つ 人口減少日本の活路』(小学館新書)では、「今後100年で日本人人口が8割減少する」という“不都合な現実”を指摘した上で、人口減少を前提とした社会への作り替えを提言している。

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