2022年12月2日、カタールで開かれたサッカーW杯の日本対スペイン戦。
負ければグループ予選敗退の大一番で後半6分、三苫薫の折り返しを田中碧が押し込んで日本が逆転した。この時、三苫の蹴ったボールがゴールラインを割ったか割らなかったかで「VAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)」チェックが入った。結果、ラインを割っていなかったことが判明し、ゴールが認められた。この判定はサッカーファンの間で「三苫の1ミリ」と語り継がれている。
このVARシステムをFIFA(国際サッカー連盟)に提供しているのが、英国に拠点を置くソニーグループの「Hawk-Eye Innovations(ホークアイ・イノベーションズ)」。
システムにはソニーが家庭用のテレビやビデオカメラの時代から培ってきた画像処理向けの半導体やセンサーのノウハウが使われている。
画像処理半導体やセンサーの事業は現在、イメージング&センシングソリューション事業に括られ、年間2000億円近くの営業利益を叩き出す。世界最大の半導体メーカー、台湾のTSMCが総投資額86億ドル(約1兆2000億円)を費やして熊本県に建設した半導体工場の運営会社JASMにも、ソニーはデンソー、トヨタ自動車とともに出資している。
ハード事業を捨てるわけではないが、それはあくまでも「KANDO」を生み出すツールとして使う。その割り切りが、ソニーをハードやモノづくりの呪縛から解き放ったと言える。
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【プロフィール】
大西康之(おおにし・やすゆき)/1965年生まれ、愛知県出身。ジャーナリスト。1988年早大法卒、日本経済新聞社入社。日経新聞編集委員などを経て2016年に独立。著書に、『最後の海賊 楽天・三木谷浩史はなぜ嫌われるのか』(小学館)など。ベストセラー『起業の天才! 江副浩正 8兆円企業リクルートをつくった男』(新潮文庫)が文庫化されて発売中。
※週刊ポスト2025年1月3・10日号