「ダサくない水」という斬新なコンセプトを提示
さらに、リキッド・デスは環境意識を随所に取り入れることで、ブランドの魅力をより一層際立たせている。プラスチックボトルではなく、リサイクル可能なアルミ缶を採用することで、「地球に優しい選択」を消費者に対して提案している。
この取り組みによって、リキッド・デスを飲むという行為そのものが「環境に配慮した意識的な選択をする自分」を体現する行動へと変容している。環境問題への積極的な姿勢は、特に若い世代の消費者層から深い共感を集め、ブランドの差別化をさらに際立たせると同時に、その魅力を格段に高めている。ただの飲料ではなく、持続可能な未来を目指すライフスタイルを象徴する存在として、唯一無二の地位を築いているのだ。
こうした大胆かつ巧妙なブランディング戦略によって、リキッド・デスは2019年にスタートしてからわずか4年で売上403億円に達する企業へと急成長を遂げた。しかし、同社が提供しているのは単なる飲料ではない。その本質は「他者とは異なる自分」を表現するための選択肢としての価値にある。
「ダサくない水」という斬新なコンセプトを提示し、消費者に商品としての価値以上の意味を提供している。その結果、同業他社との競争とは無縁の独自のポジションを確立し、従来の飲料市場に新たな基準を打ち立てることに成功したのである。
シンプルな商品にそれ以上の価値を付加するという挑戦に対して見事な解答を提示している。水という普遍的な商品を「他者と異なる自分」を演出するためのツールへと昇華させ、消費行動そのものを特別な体験へと変貌させたのだ。
この巧妙かつ洗練された戦略こそが、飲料業界でその存在感を際立たせている最大の理由であり、同時に同ブランドが創出したMXの象徴的な事例でもある。
リキッド・デスは、シンプルな商品に物語性を宿らせ、これまでにない市場価値を生み出すブランドとして高く評価されている。その存在は飲料業界にとどまらず、他業界においても「商品に意味を与える」マーケティングの未来像を提示するものだ。
この成功は、どんなに日常的な商品であっても、斬新な視点と物語を取り入れることで、独自のポジションを確立できることを力強く証明している。リキッド・デスの事例は、商品の枠を超えて、文化と価値を創出する可能性を明確に示しているのである。
※勝木健太・著『「マウント消費」の経済学』(小学館新書)より一部抜粋・再構成。
【プロフィール】
勝木健太(かつき・けんた)/1986年生まれ。幼少期7年間をシンガポールで過ごす。京都大学工学部電気電子工学科を卒業後、新卒で三菱UFJ銀行に入行。4年間の勤務後、PwCコンサルティングおよび監査法人トーマツを経て、経営コンサルタントとして独立。約1年間にわたって国内大手消費財メーカー向けに新規事業・デジタルマーケティング関連プロジェクトに参画した後、2019年6月に株式会社And Technologiesを創業。2021年12月に株式会社みらいワークス(東証グロース:6563)に会社売却(M&A)し、執行役員・リード獲得DX事業部 部長に就任。2年間の任期満了後、退任。執筆協力実績として『未来市場 2019-2028』(日経BP社)『ブロックチェーン・レボリューション』(ダイヤモンド社)、企画・プロデュース実績として『人生が整うマウンティング大全』(技術評論社)がある。