東北・北海道新幹線を走るE5系。長い「ノーズ」が特徴。東京駅にて筆者撮影
鉄道は、多くの人にとって交通の手段としてだけでなく、趣味や娯楽の対象としても親しまれており、ときに人々の知的好奇心を刺激してくれる。交通技術ライターの川辺謙一氏による連載「鉄道の科学」。第29回は「新幹線の顔」について。
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今回のテーマは、「新幹線の顔」です。ここで言う「顔」とは、新幹線を走る電車の先頭車の先頭部のことで、正確には「ノーズ」と呼ばれます。「ノーズ」の語源は、「鼻」を意味する英語「nose」です。
日本の新幹線では、「ノーズ」が長い電車が使われています。たとえば山陽新幹線を走る500系や、東北・北海道新幹線を走るE5系・H5系では、屋根が傾斜する部分の長さが15mの「ノーズ」が採用されています。
これは、なぜでしょうか? 今回は、この理由を探りながら、「新幹線の顔」のひみつを探ってみましょう。
トンネルで発生する音を小さくする
まず、結論から言います。日本の新幹線で「ノーズ」が長い電車を使う大きな目的は、トンネルを通過するときに発生する音を小さくすることです。
こう書くと「空気抵抗を減らすためでは?」と言う方もいるでしょう。たしかにそれも理由の一つです。「ノーズ」が長くなると、空気抵抗が小さくなります。
ところが海外の高速鉄道では、日本の新幹線よりも「ノーズ」が短い車両が300km/h以上で走っています。フランスのTGVやドイツのICEの車両が、その代表例です。つまり、「ノーズ」が短い車両であっても、高速走行は可能なのです。
フランスの高速列車(TGV)の車両。フランクフルト中央駅にて筆者撮影
ドイツの高速列車(ICE)の車両。フランクフルト中央駅にて筆者撮影
それでは、なぜ日本の新幹線では「ノーズ」が長い電車が使われているのでしょうか。それは、「トンネルドン」などと呼ばれる音が発生しやすい長いトンネルが多いうえに、環境省が定める騒音に対する基準をクリアする必要があるからです。
この背景には、日本特有の理由があります。日本の陸地は、ヨーロッパの陸地よりも地形の起伏が激しく、山地の割合が大きいため、狭い平地に人口が集中しています。このため、主要都市を結ぶ新幹線を建設するには、山を貫く長いトンネルや、人口密集地を通らざるを得ません。だから、新幹線で発生する騒音が問題になりやすく、それを小さくする工夫が求められるのです。