どんな「方法論」を応用しても画期的な新発見はできない
デザイン思考を例にとって考えてみます。
デザイン思考とは、デザイナーやクリエイターの思考プロセスをビジネスに転用し、前例のない課題や未知の問題の解決を図ることです。その大きな特徴のひとつは、ユーザーや生活者の行動、体験に潜む隠れた課題・困難・妥協などを、論理だけでなく感性や感情、五感や身体も総動員で捉えて、解決策もユーザーや生活者の体験などに寄り添って検討していくことでしょう。
生活者理解のための調査や観察については、たくさんの方法論やフレームワークがありますが、デザイン思考における王道といえばエスノグラフィでしょう。エスノグラフィとは調査対象者の生活の場に実際に身をおいて、行動を共にしながら観察して記録する調査手法です。
この調査はもともと主に文化人類学の分野で、原住民をはじめとした異社会の生活様式や異文化、その根底にある価値観などを深く理解するための調査と記録の手法として発達してきたものです。それが当初は商品デザインを考えるための生活者観察・調査の方法として応用され、さらに大きな単位でビジネスや社会の変革の切り口を考える思考法や実践法へと転用されてきました。
デザイン思考やエスノグラフィ調査は、従来の論理的・合理的なユーザー理解を前提としたマーケティングの限界を超えるブレイクスルー方法論としてビジネス界に受容されました。これを行えば従来の消費者リサーチでは見えなかった生活者の真のニーズや課題が明らかになり、新商品やサービスのヒントがたちどころに得られる……。そんな魔法のような結果が期待されました。
でも実際のところ、方法論に沿って消費者観察したところで、それだけでは何も新しい発見なんか出てきません。新しい発見だと思っても、たいていは単に自分たちが無知だったがゆえに新しく見えただけで、「その分野の中では常識だった」なんてこともしばしばです。