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投資
伝説のプログラマーが説く「メタトレンド投資」の極意

「外国人から見ると異様でしかない」日本企業に根強く残る“非効率な経営”の実態 “伝説のプログラマー投資家”が日本市場全体への投資を躊躇する理由

セブン&アイ・ホールディングスの買収騒動でも浮き彫りになった日本市場の特異性や閉鎖性とは(Getty Images)

セブン&アイ・ホールディングスの買収騒動でも浮き彫りになった日本市場の特異性や閉鎖性とは(Getty Images)

 少子高齢化や非効率な経営慣行など、日本経済には根深い構造的問題があり、市場全体としての魅力は乏しい――。NVIDIA(エヌビディア)株のポテンシャルをいち早く見抜いたことでも知られる元マイクロソフトの“伝説のプログラマー”で投資家の中島聡氏は、日本市場に対し冷静にそう指摘する。日本企業とアメリカ企業の何が違うのか。中島氏の著書『メタトレンド投資 10倍株・100倍株の見つけ方』(徳間書店)から再構成して紹介する。【前後編の前編】

「日本市場」全体が期待薄と言わざるを得ない理由

 日本企業の中には、潤沢な資産を持ちながらも、それを有効活用できていない企業が数多く存在します。典型的な例が、PBR(株価純資産倍率)が1倍を割り込んでいる企業です。

 PBRとは、「株価が1株あたり、純資産の何倍になっているか」を示す指標です。このPBRが1倍を割ると、理論上「企業を解散し、保有資産をすべて現金化して分配したほうが株主にとって得である」ということになります。

 アメリカであれば、PBRが1倍を割る企業は敵対的買収の格好の標的になります。そして、買収後には事業の切り売りや、資産売却などが行われ、企業価値の向上、つまり株価の上昇が図られます。

 しかし日本ではアメリカのような敵対的買収は容易ではなく、結果として非効率な経営が温存されてしまっているのです。

 私の友人に、いわゆる「ハゲタカファンド」の関係者がいます。彼は日本企業の買収について「非常にやりにくい」と言っていました。日本で企業買収を試みると、政府が介入してくることが多いというのです。実際、彼のファンドは東芝に対し、株主提案などを通じて経営改革を迫ろうとしましたが、日本政府の介入によって大きな困難に直面したと語っていました。

 2024年8月、カナダのコンビニエンスストア大手、アリマンタシォン・クシュタールがセブン&アイ・ホールディングスに対して、買収提案を行いました。この動きを受けてか、財務省はセブン&アイを外為法(外国為替及び外国貿易法)上の「コア業種」に分類しました。外為法は国家安全保障の観点から、重要な業種を「指定業種」や「コア業種」として指定し、海外投資家からの投資に対して、より厳格な規制を設けています。

 もともとセブン&アイは「コア業種以外」に分類されていました。しかし今回、コア業種に変更されたことで、海外投資家からの買収のハードルが格段に上がります。財務省はセブン&アイをコア業種に分類した理由について公式には明らかにしていませんが、これによりクシュタールによるセブン&アイの買収は極めて困難な状況となりました。

 東芝のように、高度な技術や、国防に関わる事業を有する企業の場合、外為法による規制は仕方ない部分があるかもしれません。しかし本来、安全保障とは無縁のはずの流通や小売企業に対して安全保障の話が出てくるあたり、日本市場の特異性や閉鎖性が垣間見えます。

 今後、日本でもアメリカのように買収を通じた企業の新陳代謝が活発になれば、経済が大きく成長していくチャンスはあるでしょう。日経平均株価の上昇も期待できるかもしれません。しかし、直近のセブン&アイの事例を見るに、その道程はまだまだ遠い気がします。

次のページ:日本企業とは対照的なアメリカ企業のダイナミズム

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