名家出身にも苦労はある(イメージ)
「○○社創業家の出身」「名門・○○一族の御曹司」といった表現に対し、憧れを抱く人は少なくないだろう。お金には困らないだろうし、色々な人に親切にしてもらえる――そんなイメージがあるからだ。一方でネットニュース編集者の中川淳一郎氏は、「名家の人にも苦労はありますよ」と言う。これまで様々な名家出身の人物と接してきたという中川氏が、その真意について綴る。
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私が昔いた会社は、いわゆる“名家の関係者”が多い会社でした。私自身はそのような出ではありません。そうした方々は社内でも噂の的になるんですよね。「○○さんは資産3000億円の創業者の孫だぞ!」みたいな感じで。
実際、ご本人はそのことを誇示するわけでもなく、淡々と日々の仕事をしているのですが、いわゆる「大ゴネ」と言われる社員は、やはり一般社員からすると特別な存在でした。その特別感というものは、「羨ましいですね。大金持ちの家に生まれた名門の方はね……」というやっかみの気持ちにも表れます。
私自身はコネ入社というものを、肯定的に捉えています。何しろ、こうした方々は生まれもっての「帝王学」を学んでいるし、様々なビジネスマナーや会食でのスマートな振る舞いも自然に身についている。そして、コネ枠であろうが採用数は限られているだけに、サラブレッドの中でも選ばれし方々なんですよ。正直、私のように一般採用された人間よりも総合力は上なのではないか、と今でも思っています。
ただ、そうした方々が気の毒なのが、名家出身ということだけで、人々から偏見をもって見られることです。たとえば、職場のデスクでコンビニ飯を食べているだけで「えぇ~、大富豪がそんなもの食べてるの~?」なんて言われたりする。言う側は、特に悪意があるわけでなく純粋な疑問から言っただけでしょうが、ご当人からすれば「仕事が忙しいから一番早く食べられるものを買っただけです!」と反論したくなるでしょう。
こうした「名家の関係者への偏見」は常に付きまといます。たとえば、会食に行った時も、ケチな人が一人いた場合、その方がおごってくれることを期待するようになるのです。これは「同僚」としての関係性ではなく、「大金持ちと一緒に食事をしているんだから、これぐらいの支払いは微々たるもので、当然おごってくれるんでしょ?」という歪んだ認知によって生まれた願望です。
さらに、たとえば名家の人物が部下だった場合、取引先に紹介する時、「この田中(仮名)は、○○社の創業者の孫なんですよ」と言うのが定番になる。上司からすれば、よりハクをつけるべくこの人物を利用しているわけですし、取引先もその事実を好意的に捉えるかもしれません。しかし、自分のことよりも家柄ばかりを前面に出されるご当人からすれば、あまり面白くない状況でしょう。