ばあちゃんたちの智恵を活かした「ばあちゃん飯」
高齢化が加速度的に進行する中、福岡県うきは市に、2019年に設立された会社が今、国内外から注目を集めている。会社の名前は「うきはの宝」、従業員は75歳以上のおばあちゃん。目的は、地域のおばあちゃんに「収入」と「生きがい」を提供すること。
うきはの宝は、ばあちゃんたちの智恵を活かして「ばあちゃん飯」に「ばあちゃん食堂」「ばあちゃん新聞」「ユーチュー婆」など、「ばあちゃん」をキーワードにした商品を次々とヒットさせている。創業した地元出身の大熊充氏の著書『年商1億円!(目標)ばあちゃんビジネス』より、シニアが充実して働けるための環境整備をどうするべきか紹介する。
必要なのはシニア専用の雇用制度
高齢者ビジネスの最大の課題。それは、二十歳と八十歳の雇用制度がいまだ同じということです。
昨年、全国の最低時給が上がったというニュースがありました。これは雇用される側からすると、嬉しい話です。働く時間は同じでも給料が増えるんですから。
一方で、人件費が高騰すると雇用する側の会社は経費がかさみます。原材料費なども上がり、さらに上がった人件費を捻出するために、会社は生産しているものの値段を上げなければなりませんが、そう簡単に商品の価格は上げられません。
スタッフの給料は上げてあげたいけれど、経費がかさむと経営が苦しくなる。この狭間で経営者は苦しんでいます。
どうせ高い人件費を払うなら、高齢者よりもからだが丈夫で長く働ける若手を採用した方がいい。企業や経営者にとっては当然の考え方です。
うきはの宝では、ばあちゃんたちの時給もアルバイト契約の場合は福岡県が定める最低額を払っていますが、若い世代よりもゆっくり、のんびり働く高齢者に若い世代と同じ時給を支払うとなると、もっと長い時間働いてもらわなければ割に合わなくなります。すると、長時間つらい思いをして働いてもらい、体調が悪い時にも無理して出勤してもらわなければならなくなる……こういう悪循環が起こると「やっぱり高齢者は雇わない方がいい」というオチになってしまいます。
だから、僕は厚生労働省に「シニア専用の雇用制度を作ってほしい」とかけ合い続けています。
たとえば、通常の最低時給が千円だとするなら、シニアの最低時給は六百円でいい、と。そして、残りは国が負担するような仕組みにできないものか、と。
これなら企業も高齢者を雇いやすくなるでしょう。実際に、僕がヒアリングしただけでも時給が五、六百円なら高齢者でも雇いたいという企業はあります。時給の問題がクリアすれば、高齢者ビジネスの浸透も早くなるはずです。