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キャリア
中室牧子教授に聞く「受験と進学の真実」

中学受験で「第1志望ギリギリ」より「第2志望への上位進学」のほうが成功につながるという衝撃データ 進学した学校での「学内順位」は後々まで影響【中室牧子教授に聞く】

「周囲からの好影響」を受けるのは学校内の上位グループだけ

 そのエビデンスとなるのが、同書でも紹介されている、埼玉県の公立小・中学校で実施されている県内共通の学力調査のデータを利用した研究(2022年)だという。

 公立の小・中学校でも、学校ごとで生徒の学力レベルにかなり差があるため、実力が同じでも、学校が違えば順位に違いが出る。中室教授らはその状況を利用して、〈小学校のときの学内順位が中学校入学後の学力に影響を与えているかどうか〉を調べたところ、〈小学校のときに、県内共通の学力調査でまったく同じ点数だったとしても、学内の順位が1位だった児童は、別の学校で順位が最下位だった児童と比較すると、中学校での数学の学力テストの偏差値が2.1〜6.2、国語が3.1〜6.2も高くなって〉いたという(前掲書より)。

 中学入学後の成績に影響を与えるのは、「学力調査の得点」ではなく、「小学校内での順位」だというのだ。なぜこんなことが起きるのか。中室牧子教授自身に解説してもらった。

「周囲の子供たちと比較して自分の能力を判断し、自分は能力が高い、あるいは低いと誤認してしまうからです。これは“井の中の蛙効果”と呼ばれていて、教育経済学の分野では世界中で研究が行なわれています。

 最近の研究では、学力が高まるのはその学校で上位層にいる子だけという結果が出ています。下位層の子は、学力優秀な子が同じクラスにいても学力は上がらず、むしろ下がってしまうのです」(中室教授)

 無理して実力より上の学校に進学し、下位層に沈んでしまうと、逆に学力が下がるというのだ。周りにいる優秀な子から刺激を受けて学力が高まったりはしないのか。

「学力の高い同級生と交流すると、正のピア効果(能力の高いグループに属すことで、切磋琢磨してお互いを高め合う効果)が働きます。上位層の子の学力が上がるのはそのためですが、友達からの影響というのは、いい影響ばかりとは限りません。下位層にいる子は、自分よりずっと優秀な子を目の当たりにすると、自分はダメだと自信を失い、努力することをやめてしまうことが多い。この負の“井の中の蛙効果”が正のピア効果を上回ってしまうと考えられます」(中室教授)

 ピア効果は、その学校の上位層にだけ表われるというのだ。

 我が子に中学受験をさせる保護者で、大学合格実績を参考に受験校を選ぶ人はすでにご存じのことだろうが、毎年、東大に100人前後の合格者を出すような超難関校から日東駒専などの中堅私立大学に進学する子がいる一方で、中学入試の偏差値がそこまで高くない学校からでも、毎年数人程度は東大に合格していたりする。超難関校に入るのは、その年代の小6のトップ・オブ・トップであり、中学受験の時点での学力差がそのまま続くのなら、こうした現象は起きえないはずだが、これも“井の中の蛙効果”で説明がつく。進学した学校での「学内順位」の影響はそれほど大きいという。

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