小学校内の順位は将来の年収にまで影響する?
学内順位の影響が及ぶのは学力だけではない。アメリカのテキサス州の全公立小・中学校の児童・生徒、約300万人の行政記録情報を使った研究では、小学3年生のときに州内共通の学力テストでまったく同じ点数でも、クラス内順位が最下位だった児童は、別の学校で真ん中くらいだった児童と比較すると、23〜27歳時点での年収が平均で約18万〜38万円も低かったという結果が出ているという。
この学内順位については、さらに衝撃的な研究がある。
「私たちが過去に行なった別の研究では、中高一貫校に入学した中学1年の5月に実施される最初の中間テストで、学内順位を生徒に知らせると、その順位が固定化されて、そのまま6年間続くという現象が起きていました。
中1の5月のテストなんて、授業はまだほとんど進んでいなくて、大した内容ではないにもかかわらず、そこで出た最初の順位というのが、セルフパーセプション(自分自身に対する認識、評価)に非常に大きな影響を与える。『あいつはできるが、自分はダメだ。やってもダメだからやらない』という思考に陥ってしまうのです」(中室教授)
にわかに信じがたい話だが、もし本当なら、逆に、内容がまだ易しい最初の中間テストのときに、猛烈に勉強してトップクラスに入れば、6年間維持できるのではないか。
「その可能性はありますが、無理して上位層に入ると、自分よりずっと能力の高い人たちに囲まれることになり、ついていけなくて劣等感を抱いたりすると同じことになります。それに、6年間で終わりではなくて、大学に入っても社会に出ても、新しい環境に移るたびにスタートダッシュだけ猛烈に頑張るというのはあまり生産的ではないでしょう。それよりも、周りの人たちの能力と比較して自分の能力を測らず、他人は他人、私は私と切り分けて、自分への投資をやめないように子供たちを導いてあげることが大事です」(中室教授)
他人と比較しないことが大事ということに異論はないが、負の“井の中の蛙効果”のリスクにさらされないよう、最初から実力相応、あるいは、少し下くらいの学校を選ぶというのも一つの選択かもしれない。
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【プロフィール】
中室牧子(なかむろ・まきこ)/慶應義塾大学卒業後、米ニューヨーク市のコロンビア大学大学院でMPA、Ph.D(教育経済学)を取得。日本銀行等を経て、2019年から慶應義塾大学総合政策学部教授に。デジタル庁シニアエキスパート(デジタルエデュケーション担当)、東京財団政策研究所研究主幹などを兼任。政府のデジタル行財政改革会議、規制改革推進会議等で有識者委員を務める。近著『科学的根拠(エビデンス)で子育て』(ダイヤモンド社)が発行7万8000部を超え話題に。その他著書に発行部数37万部の『「学力」の経済学』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、共著に『「原因と結果」の経済学』(ダイヤモンド社)がある。
取材・文/清水典之(フリーライター)