昔は「老いては子に従え」といわれた。高齢になれば、子供に生活の面倒を見てもらう立場になるものだったからだ。だが、現在では逆に高齢の親から「成人」した子供への仕送りが増えている。
内閣府の『高齢者の経済・生活環境に関する調査』によると、60歳以上世代の約21%が、子や孫が成人した後も生活費の面倒を見ている。もちろん、学生は含まない。成人した子(孫を含む)の生活費のほとんどを親が賄っているケースも5%にのぼる。
老後の資産計画を考えるとき、最大のリスクは「独立した子供への金銭的支援」になるかもしれない。
生活費の仕送りだけではない。来年65歳の年金受給を迎えるAさん夫婦のもとに、突然、娘が離婚して乳飲み子を抱えて出戻ってきた。「私が働くから心配しないで」。娘はそう言うけれども、貯金はないようだし、1歳の孫の保育園はなかなか見つからない。
Aさん夫婦の年金だけで4人の生活を支えることができるか心配だ。家族問題評論家の宮本まき子氏が言う。
「今は昔と比べて結婚から離婚までの期間が短くなっており、結婚5年未満の離婚が一番多い。そのため娘が幼い孫を連れて出戻るケースもある。娘が仕事を探すためには孫を保育園に入れなければならないが、親元に同居してしまうと“育児してくれる人がいる”と判断されて保育園に入るための点数を大きく引き下げる自治体が多い」
孫は待機児童で、娘は職探しができない。祖父母は老後資産が減っていくという負のスパイラルだ。
娘と孫の生活費の面倒を見るとなると、一体どのくらい生活費が増えるのだろうか。「私自身も2歳の息子を連れて実家に戻りました」。そう語るのはファイナンシャル・プランナーの井上美鈴氏だ。
「親には生活費として毎月7万円渡していました。これは家賃分も含めた金額で、私と息子が増えたことによる世帯の出費増は月5万円ほどでした」