10万とも20万ともいわれる日本の名字の秘密を、『名字でわかるあなたのルーツ』(森岡浩・著)を元に探ってみよう。日本の名字は、必ずしも歴史に残る公家や武家が発祥ではなく、むしろ少数派である。現存する最も古い庶民の名字の記録は、和歌山県紀の川市粉河の王子神社に伝わる「名つけ帳」である。室町時代の1478年から現在まで、新しく生まれた子供の名前が記帳されており、その長さは70メートルを超える。少なくとも室町時代には、庶民にも名字があったことを示している。
一定の年齢以上の人だと、学校で「江戸時代には士農工商の身分制度があり、武士だけが名字を持っていた」と習ったのではないだろうか。それが誤解のもとになり、庶民は明治に入ってから名字を持ったと思っている人も多いが、それは間違いである。正確に言うと、江戸時代には武士だけが「名字を名乗ることを許されていた」というだけで、その時代には農村を含めてほとんどの国民に名字があった。
さて、日本の大半を占めた農村部では、植物にまつわる名字が多い。身近な存在であり、特徴的な木などがあれば、家と家を区別するのに便利だったからだろう。
特に、農村部には高い建物がなかったため、木は遠くからでも目立つ「標識」になった。これは余談だが、日本各地に「二階さん」という名字があるのは、二階建てがそれだけ珍しかったからである。そして、「三階さん」という名字もあるが、こちらはかなり珍しいのもうなずける。
では、植物由来の名字で一番多く使われる字は何だろうか。ランキング16位、48位、87位、92位と、ベスト100に4つも登場する「あの身近な木」である。
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