妻の実家近くには60代後半の義姉夫婦が暮らしているが、義母の面倒をほとんど見ていないという。
「月に1~2回の病院通いも、義姉夫婦は『うちは免許を返納して車もないから』と断わるので、私が車を出して付き添うのが当たり前のようになっています。私は定年後の今も嘱託として会社に残りましたが、義母の世話を始めてから仕事を休みがち。そのうち会社に『介護に専念したほうがいいのでは』と言われそうで不安です」(同前)
終活相談などを受けるLMN代表理事の遠藤英樹氏はこう言う。
「日本は“親の面倒は子供が見る”という前提でさまざまな制度設計がされています。親が要介護状態になれば子供に連絡が来るし、介護保険の書類にも子がサインする必要がある。嫌いだからと没交渉にしたくても、簡単ではありません。義父母がひとりになったらどうするか、日頃からコミュニケーションを図っておき、『自分たちにできるのはここまで』とあらかじめ線を引いておくことが大事です」
娘婿 は“頼って下さい”と言ってはいけない
それでも、想定外の事態は起こり得る。石川県に住む72歳男性が語る。
「義父母は、嫁ぎ先から出戻った義妹と長年同居していました。要介護1の義母の世話をしていた義妹には“困り事があれば遠慮なく相談してほしい”と話していましたが、その彼女が60歳を前に若年性認知症を患ってしまった。幸い元気だった義父が高齢の身を押して2人の面倒を見ていたのですが、昨年、心筋梗塞で急逝してしまいました」
義母も義妹も施設への入居を頑なに拒んでおり、男性夫婦はそれまでの生活設計を変えざるを得なくなった。
「私たち夫婦の終の棲家として買った郊外の1LDKでは、2人を引き取りようがない。そこで近所に古い一軒家を借り、義母と義妹をそこに住まわせて、夫婦交代で通い、世話することにしました。金銭面の負担も大きく、万全だったつもりの老後の生活設計が、大きく狂い始めています」(同前)
前出・遠藤氏はこう指摘する。
「安易に“何かあったらうちを頼ってください”と言ってきたことが失敗のもとです。何が起こるか分からないのが介護の世界。義父母が元気なうちから施設への入居を検討するなど、本人たちの気持ちを方向づけておくことが必要だと思います」
※週刊ポスト2021年4月30日号