使わなくてもサブスク料金を払い続ける「現状維持バイアス」
橋本さん:あと、「現状維持バイアス」というのもあります。変化を好まず、現状に固執する心理です。最近は、商品の代金やサービスの利用料を毎回払うのではなく、ある金額を払えば一定期間は利用し放題になる「サブスクリプション」が増えていますが、「現状維持バイアス」がマイナスに作用することがあります。
そういえば、オバ記者さんは、あるドラマが見たかったがために動画配信サービスのサブスク契約を結んだものの、最近はそのサービスをほとんど利用していなくて、利用料金だけを毎月払い続けているって、前回グチっていましたけど、その後、どうなりました?
オバ記者:いまだ払い続けているわよ。毎月2000円とはいえ、利用していないものにお金を払い続けるのがバカらしいことはわかっているのよ。わかってはいるんだけど、パスワードを思い出せなかったり、手続きが面倒くさそうで何かにつけて後回しにしたり……。
橋本さん:まさに、典型的な「現状維持バイアス」です。外食するとき、いつも同じ店に行ってしまうのも「現状維持バイアス」です。新しい店にチャレンジしたら、予想以上に高額で冷や汗をかくかもしれない。その点、行き慣れた店は刺激も新発見もないけれど……。
オバ記者:ハズレはない。
橋本さん:そう。成り行きが予測できれば損失回避もできるとわかっているので、「とりあえずいつもの店」となるんです。あと、「投影バイアス」というのもあります。空腹時にスーパーマーケットに行くと、空腹状態が永遠に続くような気がどこかでして、カゴに食品をどんどん放り込んでしまう。そんなこと、ありませんか?
オバ記者:あるある。空腹って毎日感じるものだから慣れているはずなのに不思議よね。そのときお腹が空いているだけなのに、まだ足りないだろうってたんまり買っちゃう。
橋本さん:このバイアスは空腹に限らず、さまざまなところに顔を出します。たとえば入社間もない人が、仕事が大変だといって退社してしまうことがあります。もう少し辛抱してがんばれば慣れてくるかもしれないのに、そうしたネガティブな状態が延々続くと思い込んで落胆し、その気持ちを払拭するために会社を辞めてしまうわけです。
オバ記者:お先真っ暗ってやつね。
橋本さん:そう、先が見通せなくなっちゃう。そしてそれは、ネガティブな状態に限りません。会社員って定期的にお給料が振り込まれますよね。でも油断していると、ある日突然、ポンポンと肩を叩かれるかもしれない。いまの時代、いつどうなるかわからないのに、定年まで安泰だと疑わない。これも「投影バイアス」です。
暴飲暴食しているのに「これくらいなら大丈夫」と思い込んだり、「医者に行く必要はない」と自分に無理矢理言い聞かせたりする人がいますが、ある状態がいつまでも続くものではない、ということにもう少し敏感になるべきだと思います。健康にしても、財産にしても、よい状態でも悪い状態でも、物事はずっと続くものではない──そう思った方がいいと思います。
オバ記者:先生のおっしゃること、よくわかったわ。思い込みや自分に都合のいい解釈に頼らず、バイアスから離れて、自分の状況について落ち着いて判断すべき、ということね。よし。貯金やお金についても、もう一度考え直してみることにするわ。
(了。第1回から読む)
【プロフィール】
橋本之克さん/マーケティング&ブランディングディレクター。昭和女子大学現代ビジネス研究所研究員。近著に『9割の買い物は不要である』(秀和システム)。
「オバ記者」こと野原広子さん/空中ブランコや富士登山など体当たり取材でおなじみのライター。女性セブン連載『いつも心にさざ波を!』も好評。64才。
取材・文/藤岡加奈子
※女性セブン2022年3月24日号