旧統一教会と政治家との関係に注目が集まる昨今。普通の生活をしている人にとって、新興宗教との接点はどこにあるのか。『女性セブン』の名物ライター“オバ記者”こと野原広子さんが、これまでの人生の中で、自身と家族が接した新興宗教の思い出を振り返る。【全3回の第3回。第1回から読む】
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それからまた月日が流れて10年後、よく行く喫茶店で、感じのいい同世代のママ・E美さんと知り合った。美人なのにサバサバしている彼女とはすぐに意気投合した。
そのうち彼女の小学生の娘のバレエの発表会に呼ばれ、帰りに食事会に参加した。そこには数人のママとバレエの先生もいたんだけど、これが全員、T教の信者だったのよ。なぜわかったかというと、ママのうちのひとりが「野原さんって“シック”に見えないよね」と言ったの。
「いやいや、彼女は違うから」とE美さんは大慌てよ。
T教では信者を“シック”と呼ぶと聞いていた私は、スパゲティをフォークに巻きつけていた手を止め、みんなの顔を黙って見渡したわよ。そしたら、一人の例外もなくオシャレで親切で美人。お金に困っていない空気をまとっている。忘れられないのは、飛び抜けて華やかだったY子さんだ。彼女は結婚2年目に夫を失い、生後まもない息子と2人暮らし。「彼女、入ってきた保険金の大半を献金したから、私なんかよりずっと高い霊界にいるのよね」と、E美さんはY子さんに一目置いている様子だった。Y子さんばかりか、そのグループでは一千万円単位の献金をした人が何人もいるという。
「うちの子、すごく勘がいいのよ」
会ったばかりのとき、E美さんから探るような目で何度かそう言われたことがある。なんでも、「ヒロコさんってすごくお金持ちよ」と8才の娘が言うんだって。
ぷぷ。時あたかもギャンブル依存症の真っただ中の私。万札があれば麻雀、パチンコ、時々競馬。月末に家賃が払えないのは当たり前で、大家さんと消費者金融からの取り立て電話に怯えている──なんて大人の事情が、8才の子供にわかってたまるかいな。
で、あるときE美さんに立て替えてもらった数千円を返せなくて数日待ってもらったことがあって、それきりよね。E美さんとその仲間が潮が引くように私の前から消えていったの。いまさら確かめようがないことだけど、信仰心の篤さより、私のお財布の厚みが足りなかったんだと思う。