「運転手付きの車を使って、北海道を5日間ほど旅行しました。家族4人で予算は28万バーツ(約120万円)。タラバガニが美味しかったですね」。そう話すのは、バンコクの金融業界で働く40代タイ人男性だ。
日本を何度も訪れた20代のタイ人女性会社員は言う。
「前回は関西を回りましたが、1週間のホテル代と食費が7万バーツ(約30万円)ほど。ディオールのイヤリングやニューバランスの靴、JBLのイヤホンなど計11万円くらい買い物しました」
従来、インバウンドの「主役」といえば“爆買い中国人”だったが、タイ人も日本旅行を楽しむ時代になったことを実感する。背景にあるのはタイの経済発展だ。
2023年のタイ統計局の調査によれば、タイの世帯収入は月2万9030バーツ(約12万5000円)。これは10年前の2倍ほどの数字だ。2013年にタイ人の訪日ビザが免除になると観光客が急増。タイ人観光客は2018年に100万人を突破した。コロナ禍により減少するも、円安の後押しで回復した。
人気の観光地は富士山や白川郷、ユニバーサル・スタジオ・ジャパンなど。買い物では安価な雑貨やお菓子、化粧品が好まれ、ドン・キホーテなどでまとめ買いを楽しむが……これは「初めての日本旅行」の場合だ。
訪日タイ人はリピーターが75%を占め、特に富裕層は「体験」にお金を出す傾向にあるという。インバウンドPR会社の井芹二郎氏は話す。
「スキーシーズンは雪質のいいニセコやキロロ、栂池などに行くタイ人もいます。タイの旅行会社からは、4~5日の日程で客単価8万~10万バーツ(約35万~43万円)くらいでツアー商品を組めないか相談されている」
参加する富裕層が求めるものは本物の体験だ。
「ありきたりの懐石料理は旅館などで何度も食べているのでもう飽きている。値段が張っても地元の食材を使った、ほかでは味わえないものを食べたいと言います。神戸ビーフの隠れ家的名店を知りたいと聞かれたこともありますね」(井芹氏)