ウクライナ情勢を巡る世界経済の混乱や円安の影響で、国内の金取引価格が高騰している。田中貴金属のホームページによると、金1グラムの小売価格は8391円(5月26日現在)。2017年5月の平均価格が同4538円なので、5年間で2倍近く値上がりしたことになる。しかし、そうした相場観はすべての貴金属に当てはまるわけではないようだ。
今年に入り、貴金属の買取店には金製品を売りに来る客が急増。指輪やネックレスだけでなく、金歯を持ち込む客もいるという。となれば、金と同じく「資産価値が高い」とされるダイヤモンドも高値で売れるはず……そう考え、婚約指輪を買取店に持ち込んだ60代主婦が、憮然とした面持ちで語る。
「指輪はプラチナのリング(5グラム)に、0.5カラットのダイヤが付いたもの。30年以上前のバブル期に、主人とデパートに行って選んだもので、購入価格は80万円でした。ところが、提示された買取価格はわずか8万円。足元を見られたのかと思って食い下がりましたが、プラチナ部分が約2万円、ダイヤは6万円が精いっぱいと言われてしまったのです。さすがに売る気にはなりませんでした」
当時、婚約指輪の価格は「給料の3倍」が相場とされていた。ダイヤモンドの生産、加工を行なう外国企業が仕掛けた販売戦略によるものだったが、バブル期とは言え、80万円の指輪は決して安い買い物ではなかったはずだ。なぜ、ここまで価値が下がってしまったのか。
貴金属価格に詳しい、コモディティーインテリジェンス代表の近藤雅世氏の話。
「投資対象として売買される高品質のダイヤモンドには世界共通の相場があり、この20年間で約2倍に値上がりしています。ただし、そうしたダイヤと、デパートや宝飾店で販売されるジュエリー用ダイヤは品質がまったく異なる。しかも、バブル期に販売されたダイヤの指輪は、仕入れ価格の10倍近い値付けが当たり前でした。現在の買取価格が10分の1になっていても、何ら不思議ではありません」
近年は研磨加工技術が発達し、ダイヤの加工コストが安くなったことも価格下落の一因だと近藤氏は見ている。
「そもそもダイヤは1グラムいくらという明瞭な相場がなく、流動性のある市場もない。価値は主観的な判断となるので、買取店によっては二束三文の値しか付かないこともあります」
価格高騰を期待し寝かせていても「有事のダイヤ」とはなり得ないようだ。