「良いことをした」と自己満足する男
中川:例えば私の『恥ずかしい人たち』『過剰反応な人たち』は、完璧にそういう人を排除した自分にとって心地よい世界を書いています。ただし、吉田さんのような寛容性が私にはないから、「バカやろう!」って排除しつつ、さらにそいつらの悪口を書くという2段階戦法です(笑)。
吉田さんはその前段階を書いていて、その違いは大きいですね。吉田さんはあえて排除せず、相手の言い分だけ聞いてみようかという取材姿勢が結実している。
吉田:でも私にも自分のなかのラインがあって、あまりにもひどすぎると思う人は、さすがに題材にできません。ちなみにこの本に出てくる人で、中川さんが一番友達になりたくないと思ったのは誰でしたか?
中川:「てまえどり」を意識して賞味期限ギリギリの牛乳を買ってくる夫です。妻からすると迷惑でしかないのに、本人は良いことをしていると思っているわけでしょ? 基本的に、吉田さんの本を読むと、男のほうにムカつくことが多い。どちらかと言うと女の登場人物のほうが合理性があってマシだと思う。
吉田:私は逆かもしれないです。女性の方に話を聞く機会が多いからかもしれませんが、「(女性が)そんなことで怒らなくても……」と男性に同情することが多い。
中川:私は吉田さんが結構男を擁護する視点で書いていらっしゃるとは思います。でも、男の読者である私からすると、「男のほうがアホやな」って思うエピソードが多かった。ここに出てくる男はどうしようもないな、と私は思う。
だいたい男は、職場とか町内会とかでそれなりの立場があることが多いから、建前を言わなくちゃいけないとか、何か立派なことを言わなくちゃいけない……だからつまらない奴になっちゃうのかな。
吉田:なるほど。
中川:それに対して、吉田さんの本に出てくる女性は、意外と筋が通っている感じがする。セコいエピソードばっかりだけども(笑)、どの女性もちゃんと「誰かのために私は頑張っている」と感じることができる。
吉田:それはあるかもしれません。