楽天・三木谷浩史社長(58)の姿はドイツにあった。その目的は楽天モバイルのサービスを海外企業に「輸出」することだった──。『最後の海賊 楽天・三木谷浩史はなぜ嫌われるのか』の著者があるジャーナリスト・大西康之氏が同行取材を敢行。現地で見た三木谷氏の姿をレポートする。(文中一部敬称略、前後編の前編。後編に続く)
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日本において世界に打って出る覚悟を持った“最後の海賊”である楽天グループ会長兼社長の三木谷浩史が、世界の通信市場で大勝負を挑む。
12月8日、ドイツの新興通信会社「1&1」が楽天モバイルの完全仮想化技術を使った5G通信の商用サービスを開始した。三木谷はこの完全仮想化技術を「商談会」などで海外の通信会社に売り込んできたが、商用化はこれが初めてだ。1&1から得られる収入はネットワークの構築、運用を含め今後10年で5000億~6000億円(推定)。日本企業が世界の通信市場に挑むのはNTTドコモの「iモード」、ソフトバンクによる米スプリント・ネクステル買収以来。前の二例は事実上、失敗している。三木谷の挑戦は「三度目の正直」となるか。
ドイツではネットといえば「1&1」
1&1社の本社はフランクフルト空港から車で45分の小さな街、モンタバウアーにある。創業者CEO(最高経営責任者)のラルフ・ドマームースは「ドイツでただ一人のドットコム・ビリオネア(億万長者)」と呼ばれる。モンタバウアーで不動産業を営む裕福な家に生まれたドマームースに就職したが1983年、地元のパソコン販売会社に転職した。1988年、仲間と一緒にソフトウェア会社向けのマーケティング・ソフトを作る1&1EDVマーケティングを設立する。「Windows 95」の登場で一般の人々がインターネットを使い始めた1996年には、インターネット接続サービスに進出した。ドイツでは「ネット接続といえば1&1」と言われるほどのブランド力を獲得した。
2017年には名門通信機器メーカーのドリリッシュを買収。MVNO(仮想携帯電話サービス事業者)にも進出していたが、2019年の電波オークションで5G周波数を獲得。「4社目のMNO(自社回線を持つ携帯電話会社)」として参入することを決めた。