12月8日、楽天・三木谷浩史社長(58)の姿はドイツにあった。その目的は楽天モバイルのサービスを海外企業に「輸出」すること。その取引先であるドイツの通信会社「1&1」とのセレモニーは岸田文雄首相のメッセージで幕を開けた。『最後の海賊 楽天・三木谷浩史はなぜ嫌われるのか』の著者があるジャーナリスト・大西康之氏が同行取材を敢行。現地で見た三木谷氏の姿をレポートする。(文中一部敬称略、前後編の後編。前編から読む)
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岸田文雄首相はビデオ・メッセージでこう語った。
「(異なるメーカーの機器を自由に組み合わせて、通信システムを構築する)オープンRANは、経済安全保障を重視する私の政権の考え方に合致しており、我が国はオープンRANを世界に広げていきたいと考えています。現在、日本で世界最大のオープンRANを運用している楽天と日本の通信機器メーカーであるNECが、ドイツのオープンRAN事業に貢献することは、日独両国の協力関係の新たな金字塔と言えます」
岸田首相が言う「経済安全保障」という言葉の裏には、過去10年で世界の通信システムを席巻した中国、ファーウェイ(華為技術)の存在がある。ファーウェイはその圧倒的な価格競争力で、それまで世界の通信機器市場を支配してきたエリクソン、ノキアといった欧州メーカーを駆逐してきた。
NECや富士通といった日本の通信機器メーカーも、海外ではまるで太刀打ちできず、日本国内でもコスト管理に厳しいソフトバンクなどに食い込んだ。だが、半導体などと同様、社会や経済の根幹を支える通信システムを、世界経済の覇権を目指す中国に牛耳られることに、米欧や日本の政府は危機感を募らせている。岸田は楽天の完全仮想化技術が「ファーウェイの覇道に楔を打ち込む存在になり得る」と言ったのだ。
楽天参入で「日本の携帯料金は2割下がりました」
ビデオを受け1&1のCEO、ラルフ・ドマームースがこう挨拶した。
「我々の5Gネットワーク機能は、すべて当社のプライベートクラウド上にあり、ソフトウェアによって制御されています。これは楽天が日本において、世界で初めて完全仮想化の携帯電話ネットワークを運用してきた豊富な経験の恩恵を受けています。ワン・チーム、ワン・ドリームで成し遂げたヨーロッパで最も革新的な携帯ネットワークです」