日本では2022年にKDDIがスペースXと業務提携。国内に1200箇所のステーションを作り、2024年から「au」のスマホとスペースXの衛星を直接つなぐサービスを開始する計画だ。ソフトバンク、NTTドコモもスターリンクの利用を表明している。今年1月に発生した能登半島地震では、KDDIなどがスターリンクのサービスを無償提供した。
スターリンクは宇宙空間にある衛星と地上のステーションの間で電波をやり取りし、利用者のスマホはこのステーションとつながることで通信を可能にする。ASTの衛星モバイルは地上ステーションを必要とせず、宇宙にある衛星と地上のスマホがダイレクトにつながる。それを可能にするのが低軌道を周回する巨大アンテナだ。
スターリンクなど他社の衛星モバイルが使う衛星のアンテナは家庭の薄型テレビ画面程度の大きさだが、ASTのアンテナは25m四方。25mプールを宇宙に浮かべるイメージだ。アンテナを折り畳んだ状態でロケットに搭載し、周回軌道に乗せた後、数か月かけて羽を展開する。
「論理的には可能」と判断
このSFチックな構想を思いついたのがASTの創業者、アヴェル・アベラン氏。ベネズエラ出身のアベラン氏は自国の大学を卒業した後、米国の衛星通信会社でエンジニアとして働き始め、2017年にASTを創業した。
楽天グループ会長兼社長で楽天モバイルの会長でもある三木谷浩史氏がアベラン氏に会ったのは2019年5月。当時、楽天モバイルのCTO(最高技術責任者)として、世界初の「携帯電話ネットワークの完全仮想化」を進めていたタレック・アミン氏(2023年8月に退任)の紹介だ。
低軌道に巨大なアンテナを浮かべ、手元のスマホと直接通信する。アベラン氏の構想は荒唐無稽に聞こえたが、三木谷氏は「論理的には可能」と判断した。
「宇宙というと大層に聞こえるけど、地上600kmって、水平方向に置き換えれば東京・広島の距離でしょ。電波のスピードを考えれば大して遠くない。水平方向にはビルや山やら遮蔽物が沢山あるけど、頭の上には何の障害もないからね」(三木谷氏)