鉄道は、多くの人にとって交通の手段としてだけでなく、趣味や娯楽の対象としても親しまれており、ときに人々の知的好奇心を刺激してくれる。交通技術ライターの川辺謙一氏による連載「鉄道の科学」。第19回は「レールの継ぎ目」について。
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「ガタン、ゴトン」。これは、日本の児童書(子供向け絵本)で長らく使われてきた「電車の音」の表現です。この表現を使った児童書が多数存在するのは、子供が関心を持ちやすい韻を踏んだ繰り返し音であり、読み聞かせをするのに適していたからでしょう。
ところが近年は、この表現が使いにくくなってきました。「ガタン、ゴトン」という音を立てながら走る電車が大幅に減ってしまったからです。
なぜ減ってしまったのでしょうか? そもそも「ガタン、ゴトン」という音は何によって発生していたのでしょうか? 今回は、その理由を紹介します。
結論から言うと、「ガタン、ゴトン」という音は、車輪がレールの継ぎ目を通過するときに発生する音です。近年聞く機会が減ったのは、レールと、その継ぎ目の構造が変わり、音が出にくくなったからです。
鉄道で使われるレールは、1本の長さがおおむね25メートルになっています(メーカーが出荷する定尺レールの場合)。このため、そのまま線路に敷くと、どうしてもレールの継ぎ目を設ける必要があります。
従来のレールの継ぎ目では、向かい合うレールの間にすき間を空け、継目板と呼ばれる板とボルトで固定していました。これは、夏にレールが曲がるのを防ぐための工夫です。レールは、温度が上昇すると熱膨張で伸びるので、レール同士が接すると互いに押し合い、曲がってしまいます。そこで、意図的にすき間を空けて、レール同士が接しないようにしているのです。
すき間を空けたレールの継ぎ目では、車輪と接する面に凹凸ができます。このため、その上を車輪が通過すると、「ガタン、ゴトン」という音だけでなく、衝撃や振動が発生します。
このとき発生する音は、沿線にとっての騒音になります。また、衝撃や振動は線路にダメージを与えるだけでなく、電車などの鉄道車両の台車や車体に伝わり、走行安定性や乗り心地を悪化させます。