老後の親子関係を考えるとき、子供から頼りにされすぎることには注意が必要だ。子供は目の中に入れても痛くないとは言うものの、甘えられて言いなりになると痛い目を見る。静岡県の60代女性は、独立して家庭を持った息子(30)への仕送りを今も続ける。
「息子は2年前に結婚したのですが、お嫁さんのほうが有名企業に勤めていて、収入は息子の倍以上あるんです。家庭で肩身の狭い思いをしている息子から、『お母さん、少しだけでも援助してもらえるとありがたいんだけど』と頼まれて、お嫁さんには内緒で月2万円ほどのお小遣いを送っています。
今年は息子夫婦に子供が生まれたので、息子に言われるまま赤ちゃん用のベッドから洋服まで、一通りのベビーグッズを買い与えました。年金暮らしの私と夫の生活は決して楽ではありませんが、かわいい息子のためを思えば、夕食のおかずを一品減らしてでも、月々のお小遣いを送り続けるつもりです」
中央大学教授で家族社会学者の山田昌弘氏が、「親に依存する子供」が続出する背景を語る。
「これまでの経済成長が続いていた時代は、親の世代よりも子の世代のほうが出世する可能性が高かったんです。しかし現在の50~60代が親よりも成功できた最後の世代となり、それ以降は子の世代が親の世代より経済的に豊かではないケースが非常に多くなりました。そのため、いくつになっても子供が親を頼りにせざるを得ない家庭が増えています」
親としても、貧しくなる我が子が心配になり、つい援助してしまう。
「30年前なら娘が結婚した相手は、親よりも収入が多かったり社会的地位が高かったりすることが多かったが、現在は逆のケースが増えています。そのため『娘が不憫だ』ということで、親が結婚した娘にこっそり仕送りをする事例が目立つようになった。
私が行なった調査では、妻が夫に秘密の預金通帳を持ち、お金を使っても常に通帳の額が1000万円になるように、妻の両親が入金し続けている事例がありました。経済的な負担が大きくても、両親は娘夫婦の生活が心配なため、お金を出し続けたのです。その背景には、結婚して家を出た子供が貧乏な生活を送ることを知られるのが恥ずかしいという、親の世間体の問題もありました」(山田氏)