他者よりも優れた自分を演出したい――名だたる欧米の企業は、人々のそうした欲求を巧みに引き出し、それを満たす体験(マウンティングエクスペリエンス)を提供することで多くの顧客を惹きつけているという。
具体的にどういった企業がマウンティングエクスペリエンスを活用し、成功を収めているのだろうか。手がける商品は“ただの水”ながら売上400億円の企業へと成長した米国スタートアップ企業、リキッド・デスの事例を紹介しよう――(以下、勝木健太・著『「マウント消費」の経済学』より抜粋・再構成)。
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リキッド・デスは、「水」という極めてシンプルな商品に大胆なブランド戦略を持ち込み、飲料業界に新潮流を生み出したスタートアップである。その成功の原動力は、「水をいかにクールに見せるか」という挑戦を果敢に追求した点にある。
従来の「清潔さ」や「健康」といった水のイメージを打ち破り、誰もが当たり前に消費する「水」を個性や自己表現を映し出す象徴へと進化させたのだ。「水そのもの」に特別な価値と文化的意義を付与することで、飲料という次元を超越した存在として市場に君臨しているのである。
まず目を引くのは、挑発的で個性溢れるパッケージデザインだ。大きく描かれた不気味なスカルのロゴが印象的なアルミ缶は、「これが本当に水なのか?」と思わず二度見してしまう。
その強烈なビジュアルインパクトは「水は地味でつまらない」という従来のイメージを鮮やかに打ち破り、「クールでスタイリッシュな水」という新しいアイデンティティを創出した。このデザインがもたらす新鮮さと独自性は、リキッド・デスをバーやクラブといったナイトライフのシーンでも選ばれるファッショナブルなライフスタイルアイテムへと押し上げている。
しかし、その真価は挑発的なビジュアルだけにとどまらない。同ブランドのコミュニケーション戦略は、他に類を見ない独自性を放っている。SNSを駆使した広告キャンペーンでは、ユーモアとブラックジョークを大胆に織り交ぜることで、「清潔で健康的」という従来の水のイメージを根底から覆している。
たとえば、ハードロックの世界観を前面に押し出したプロモーション動画では、「水でありながら、ロックバンドのツアーTシャツのような存在感」をユーモラスに演出。この予想外のギャップがターゲット層の心を捉え、「リキッド・デスを選ぶ自分は他者とは異なるセンスを持っている」という特別感を消費者に対して提供している。その結果、飲料というより自己表現とアイデンティティを象徴する文化的アイコンへと進化を遂げつつある。